STATEMENT (JP)

 

都会のダイナミズムと野生性

 

 自然を慈しみ面白がることが人間に備わっている尊い能力の一つであり、制御不能な自然を観察しその摂理から「パターン化できるものとできないもの」を学ぶことで、「社会性」が備わると考えています。    

 私自身は都会が好きで、先祖から続く人間の知恵と努力の結晶(都市の夜景)を俯瞰してみたとき、人間てすごいなと思います。自然発生的にたまたま出来上がってしまった景観なのだけれど、まるで自然の一部のようで美しいです。ある場所は計算され、ある場所は計算されていないという、渾沌があります。ディズニーランドは人間が全てを計算し尽くした景観や演出の代表例で、これまたその偉大さに圧倒されます。

 しかし、とは言っても、人間には自然が必要不可欠なのです。自然を慈しむことがなければ、人間はどんどん傲慢になってしまいます。整えられた環境だけに身を置くと空虚な万能感を抱きやすいからです。人間は置かれた環境に順応するために、さらに効率を追い求め、人をモノや道具として、あるいは単なる数字や記号として扱わざるを得なくなります。人をモノとして扱うようになってしまった人間は、データを処理するAIと何が違うのでしょうか。AIは実際に現地に行って海を泳ぎ、温泉に入って、民宿に戻り、そこで生まれ育ち一度は故郷を離れたが戻ってきて今も生活している人とおしゃべりして、現地の食材を食し、氷枕で疲れて眠るという経験をできません。虫刺されの跡の痛みや痒みを感じながら自宅で絵を描くこともできません。私の作品には、生身の人間が現地の空気を肌で感じた「体験の記憶」が積み重なっています。

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 2025年9月、奥尻島での取材の様子

 

 

水の模様が心を透かしている

 

秩序がありそうで、無秩序なもの。

パターン化できそうで、できないもの。

 

世界はきっと私が認識できるほど単純ではない。

 

もっと複雑で、広くて、深い。

あらゆるものが、それぞれの場所で、交差しながら流れている。

 

距離を置いて見れば、そこには大きな流れがある。

近づいて見れば、その中には小さな流れがあって。

さらに光の粒が一つひとつ、浮かび上がってくる。

 

その粒の一つひとつには心があり、大きく揺れ、あるいは微かに動く。

制御しきれていない筆致や、違和感のある色が隠れている。

捉えようのない色や形の情動が、そこで千変万化している。

その一つひとつの在り方によって互いに影響し合い波紋をつくる。

 

この諸行無常の世界を愛おしみ描くことで、私は「生まれてきてよかった」と思いたい。

生きて、心と体で感じ尽くしたすべての陰影や色合い、そのバリエーションを遺したい。

 

波も、水飛沫も、水面の模様も、二度と同じ形や色には出会えない。

その切なくて儚い、危うい瞬間を、半年、一年、一年半という長い時間をかけて再構築していく。

光と影を緻密に積み重ねる過程は、私の中にある不安や寂しさを、癒しているのかもしれない。

 

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超現実主義と印象派と水中没入型アート

 

 水辺に取材に行くと、何かがカチッとはまって目を逸らせなくなるような瞬間に出会います。その「今だ!」という瞬間を一度止めて、描き留めておきたくて制作を続けています。それは日常でよく見る風景ではありません。水飛沫が半透明のカーテンのように見えたり、巨大な足が水中で光っていたり、炎のような水があったり、海底の石が空を見上げていたり、吸い込まれそうな水模様があったり、波の谷間から透けて見える海底が底上げされていたりします。これらはすべて現実の世界で自然発生的に起こった現象ですが、どこかシュールで幻想的な雰囲気を醸し出しています。どのタイミングで、どの視点から、どの部分を切り取るかという意識的思考そのものが、自然の現象に関する思索から湧き出たアイディアです。また、写真をもとにしながらも、水の模様や光の粒をより浮かび上がるように強調させて描くことで、写実を超え、実際に見た景色へと蘇らせ、さらには人間社会、人の心や体の複雑性を視覚化し、超現実主義的表現を体現しています。

 絵を描いていてもカチッとはまる瞬間があります。的確な場所に的確な色で的確に筆を運べたときです。それは点あるいは細くて短い筆致かもしれません。でもその一手で画面全体の印象が全く変わって見えるのです。絵が光り始めたり、透明度が上がったり、瑞々しさが増したりする瞬間のことです。その瞬間を目指して、できるだけ沢山の種類の絵具を使います。ほとんどの場合パレット上で混色をし、一見同じように見える色にも些細なバリエーションをつけます。さらに、キャンバス上で筆触分割の技法を使い、並置混色の視覚効果を最大限に引き出します。些細な変化の積み重ねで、ある時大きな変化が表出し、絵画がまるで発光しているかのような明るさを放ちます。

  作品の鑑賞を通して、浮遊感、清涼感、包容感、静寂感、眩惑感、深層感、回帰感、溶融感などの、あらゆる感覚に浸るとともに、深い精神世界へと没入することで、自己との対話から、他者との対話の準備へと繋がるような、水中没入型アートを作っています。

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